導入
RAGは今もっとも活発に研究・実用化が進んでいる技術の1つで、日々新しい工夫が生まれています。最後に、代表的な発展の方向をざっと眺め、このコースを終えたあとにどこへ向かえばよいかを示します。
発展トピック
① Agentic RAG(エージェント型RAG)
これまでのパイプラインは「質問が来たら必ず1回検索する」という固定の流れでした。Agentic RAGでは、LLM自身に「そもそも検索が必要か」「何を、何回検索するか」「どのツール(検索、電卓、外部APIなど)を使うか」を判断させます。1回の検索で足りなければ、LLMが「もう一度、違う言い方で検索しよう」と自分で判断してループすることもできます。
flowchart LR q["質問"] --> llm["LLMが判断"] llm -->|検索が必要| search["検索を実行"] search --> llm llm -->|情報が足りた| answer["回答を生成"] llm -->|まだ足りない| search
② GraphRAG(グラフを使うRAG)
文書どうしの「関係」(人物Aが所属する組織、製品Bと部品Cの依存関係など)を知識グラフとして持たせておき、ベクトル検索だけでなく関係をたどって答えを組み立てる手法です。「Aに関係する人は誰か」のような、単純な類似度検索では拾いにくい質問に強くなります。
③ マルチモーダルRAG
これまでは文章(テキスト)だけを検索対象にしてきましたが、実際の資料には画像・図表・PDFのレイアウトも含まれます。マルチモーダルRAGは、これらも埋め込みベクトルに変換して検索対象に含め、「このグラフが載っている資料はどれか」のような質問にも答えられるようにします。
④ 長文コンテキスト vs RAG
LLMが一度に読み込める文章量(コンテキスト長)は年々伸びており、「資料を全部プロンプトに入れてしまえばRAGは要らないのでは」という議論もあります。ただし、資料をまるごと毎回渡すのはコストが高く、資料が更新されるたびに渡す内容を作り直す手間もかかり、どの資料を根拠にしたかも示しにくくなります。コスト・鮮度・出典の示しやすさという点で、必要な部分だけを検索して渡すRAGは今後も有効な選択肢であり続けます。
次に学ぶとよいこと
flowchart TD now["いまここ<br/>TF-IDFでRAGの仕組みを一通り体験した"] --> a["本物の埋め込み+ベクトルDBで<br/>小さなRAGを自作する"] now --> b["LangChain・LlamaIndexを触る"] now --> c["RAGAS等で評価を回し、<br/>改善サイクルを体験する"] now --> d["自分の手元文書でQAボットを作る"]
- 本物の埋め込みモデル+ベクトルDBで小さなRAGを自作する:レッスン12・13で紹介した
sentence-transformersや Voyage AI、FAISS や Chroma を実際に自分の手元環境(Google Colab など)で動かしてみる。 - LangChain・LlamaIndexを触る:フルスクラッチで学んだ仕組みが、フレームワークのどの部品に対応するかを確認しながら使うと、迷いにくい。
- 評価(RAGAS など)を回して改善する:第5章で学んだ評価の考え方を、専用ツールで自動化し、検索や生成のどこにボトルネックがあるかを継続的に確認する。
- 自分の手元文書でQAボットを作る:自分のNotionやMarkdownメモ、社内wikiのエクスポートなど、身近なデータから始めると、チャンク分割の粒度や検索の精度が「自分ごと」として実感できる。
おわりに
おつかれさまでした。このコースで、あなたは「検索の質が、そのままRAGの質を決める」という核心の型を、TF-IDFという手を動かせる道具を使って体験しました。
- チャンク分割の粒度、ベクトル化の方法、検索の絞り込み方――それぞれの工夫が回答の正確さに直結することを、実際にコードを動かして確かめた。
- 検索結果をどうプロンプトに詰め、LLMにどう根拠を示させるかという、生成につなぐ部分の設計も一通り押さえた。
- 精度を上げる工夫(ハイブリッド検索・リランキング・評価)は、派手さはなくても実務のRAGシステムの品質を大きく左右する。
Agentic RAGやGraphRAGのような発展形も、根っこはここで学んだ「検索して、拡張して、生成する」という骨格の上に積み重なっています。焦らず、まずは小さなRAGを自分の手で1つ作るところから、次の一歩を踏み出してください。
まとめ
- RAGは日々進化しており、Agentic RAG・GraphRAG・マルチモーダルRAGなどの発展形がある。長文コンテキストが伸びても、コスト・鮮度・出典の面でRAGは有効であり続ける。
- 次の一歩は「本物の埋め込み+ベクトルDBでの自作」「LangChain・LlamaIndex」「評価(RAGAS等)の実践」「手元文書でのQAボット作成」。
- このコースで身についた核心の型は「検索の質がRAGの質を決める」こと。